相互理解講座第5回「生み出される『不法』滞在者・『失踪』者―ベトナム人元技能実習生の軌跡をたどって―」を実施しました2024.12.19
相互理解講座第5回「生み出される『不法』滞在者・『失踪』者―ベトナム人元技能実習生の軌跡をたどって―」を実施しました。
今回は、武庫川女子大学専任講師の加藤丈太郎先生をお迎えし、「失踪」を経験し「不法滞在」となったベトナム人元技能実習生の軌跡を、来日からベトナム帰国までたどり、法や制度がいかに「不法」や「失踪」を生み出しているのかについてお話しいただきました。
技能実習制度の拡大は、移民受け入れを避けるための手段として機能してきたと言われています。移民受け入れに対する抵抗は、「自民族中心主義に基づいた自己同一性」によって制約されていると指摘されています(ファーラー 2023: 172)。しかし、技能実習生は感情や主体性を持つ「人間」であり、その存在を単なる労働力としてのみ捉えることは適切ではありません。また、実習生が実習先を離れる行為が「不法」や「失踪」として扱われることが多い現状において、それらの行動は彼らが自らの意思で行動する「主体性」の表れとも解釈できるでしょう。
講座では、技能実習生として日本に来たベトナム人女性アンさんの事例を取り上げました。彼女は多額の借金をして日本に来日し、以下の計画を立てていました:
1年目で借金を完済、2年目で実家の住宅ローンを返済、3年目で貯金をし、それを持って帰国するというものでした。しかし実際には、3年間で借金をかろうじて返済できたに過ぎません。また、ほかの技能実習生への聞き取り調査では、「ベトナムで聞いていた給与額よりも、実際に得られた給与額が少なかった」という声が多く寄せられていて、この点にも大きな問題があることが浮き彫りになりました。
現在、技能実習制度は段階的に廃止されることが決まっており、2027年から新たな「育成就労制度」が導入される予定です。この移行に際しては、技能実習制度で浮かび上がった課題を十分に検証し、改善点を明確にすることが不可欠です。過去の制度運用の反省を踏まえ、人権や労働条件に配慮した新しい制度への進化が求められています。それこそが、今後の重要な課題と言えるでしょう。